大判例

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東京高等裁判所 昭和43年(ツ)15号 判決

以上の事実を認定し、右認定の事実を綜合すると被控訴人がすみに控訴人の代理権限があると信じたについては無理からぬ点がある旨判定しながら、控訴人方のような小規模の小売店の営業資金として到底考えられない百万円という金員を借入れたり、夫の固有財産である不動産に担保権を設定する行為を代理行動させるが如きは異例のことに属するから取引の相手方は、妻にかかる代理権が有るや否やにつき慎重に考慮すべき義務があるのに、被控訴人がすみに欺かれそのため以上の点につき直接控訴人に確認する等の注意を払わなかつたから被控訴人においてすみに代理権ありと信ずべき正当の事由があつたとは云えない旨を判示していることは判文上明白である。

しかしながら右の後段に判示されたことは、本件契約の締結がすみの小売店の通常の営業に関する包括的代理権又は妻としての日常の家事に関する権限を超えるものであることを意味するにすぎない。さればこそ上告人(被控訴人)は、その代理権限を越ゆる越権行為である場合を前提とし、民法百十条所定の事由があるとし、原審も前段におけるような事実認定を詳細にしているのであり、右事実からして上告人がすみに代理権があると誤信したことについては無理からぬ点がある旨説示しているわけであろう。しかも前段の認定事実によれば、上告人が取引の通念上、本件締約につき、すみに被上告人の代理権ありと信ずべき正当の事由が一応あつたものと云わざるを得ない。

原判決は、本件締約にあたり、上告人がすみに欺かれて直接被上告人の意思を確認しなかつた点に上告人に過失があるというものの如く解されるけれども、前段認定事実によれば、上告人はすみが、被上告人の実印並びに印鑑証明証を持参し、且つ従前の債権者である池田に権利書を持参せしめたにも拘らず、なお且つ、契約締結の際は被上告人本人を同道することをすみに約させており、すみが判示の事情より取り敢えず、契約の上融資額の半額の交付を求めたので、已むを得ずとして被上告人の同道なきまま締約して五十万円を交付し、残余の融資金はすみをして被上告人を帯同させ、右契約確認の上これを交付することを約せしめたが、すみは被上告人のいわゆる替玉をつかつて、その替玉をして契約を確認させたため、その替玉であることを知らない上告人はついに被上告人の真意を知るに由なかつたというのであつてみれば、たとえ替玉が使われたのは締約の翌日であるとは云え、被上告人の真意を確めようとする上告人の努力は一応尽くされていたものと解するのが相当である。

されば、本件締約について上告人に、すみの代理権のないことを知らなかつたことについて過失があるとするには、原判決の前示後段判示事実の外に、すみに被上告人の代理権を疑わせるような特段の事情がなければならない。

原判決はすみの本件代理行為が、単に越権行為であることを判定しただけで、右の如き特段の事情の有無につき何等判定するところなく、上告人がすみに代理権ありと信ずべき正当の事由がないと判断したのは、理由不備又は審理不尽の違法がありこの点においては上告論旨は理由がある。

(毛利野 石田哲 加藤)

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